Info:ndljp/pid/887377/13

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徳兵衞に面會いたし乙「御用の趣御申談に相成て宜しう御座りませう」と御用船を仕立て兩人ハ永寶丸へ赴きたり 南蠻船とハ異國へ渡る御朱印船海賊その他の用意にと甲板にハ大砲數挺掛並べ當番の小頭役ハ一刀を挿さみ番の者ハ小銃を持ち用心堅固に出入を戒め兩人の武士が本船間近く艚寄るを見て番のものが合圖の呼子を吹鳴らせバ小頭役ハ船階子の上に出て「何人にて候ぞ」と咎むるにぞ甲「是ハ公儀の御用を承ハり江戸表より罷越したるお役人ぞと言へバ小頭役ハ丁寧に會釋して甲板の舳邊に招し小頭「私し事ハ當永寶丸の小頭役磯田武平と申す者に御座りますシテお手前樣にハ誰樣にて何御用にて御出張に御座りますか一應仰聞られ度願ひ上ます」と謹んで挨拶すればヌツと落付甲「此方ハ宗門改方糟谷灰五郎これなる浦賀地役人仁田山勘六を同道いたし是へ出張の仔細と申すハ宗門奉行南郷大隅守殿より船長山田徳兵衞へ申渡の儀あつての事なれば徳兵衞へ面談いたす樣申し達せい磯田「委細畏まつて御座ります早速船長へ申し通じますれば暫時これに御待ち下さるる樣に願ひ奉る、コレ當番の者お役人衆へ床几を差上げい」と差圖なして階子を下りて船室に入り程なく甲板の上に來り糟谷に向ひ「船長山田徳兵衞儀船室にてお待受け申し上げ居りますれバ是れへ御通り下さりませ」と案内に糟谷ハ仁田山を随がへて船室に至り設けの席に打通れバ「御朱印船永寶丸の船長山田徳兵衞に御座ります」と作法正しく挨拶して床几に腰を掛るを見れバ、年齢ハ二十三歳なれども船長の重役を勤むる迄に幼少の頃より苦心したる故にや年よりは遥かにふけて一寸見には三十近く見え眉は太く濃くて一文字に生え眼は大くて涼しく鼻は高くて狭く口は小くて締り軀幹ハ中肉にて脊高く威風自ら備ハり實に一船の長とも見ゆる人物、その身には黑天鵞絨の筒袖に白の絹をもて襟口袖口を飾りたるを着し股引も同じ品にて膝頭まで届き其下は白のメリヤスにて足を包み黑塗の半靴を着き黄金の釦丹もて胸を合せ蜀紅の錦の袋に入たる御朱印を黄金の鎖にて首に掛け赤銅造りの大脇差を腰に差したるは南蠻人とも見紛ふ許なれバ、糟谷灰五郎は先づ此出立に氣を飲まれ其上に船室と云ふは幅四間に長サ五間餘もある廣座敷金銀を以て天井扉を飾り色糸にて草花を織出したる毛氈を敷詰め床几には金襴の蒲團を載せ一品として目を驚さぬものも無りしかバ暫し呆れ

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