別記第百七別記第百七嘉吉物語十四〓〓のかせんに、敵にうしろをみせす、高名仕り候也、よせ手の中に、大剛のつはもの我とおもはん人あらい、いさやよせ合、せうふを決せんと、たからかに名乘けれい、山名修理大夫殿の御內、村の助影安といへる兵、五人はりの弓に、矢をつかふてすゝみ出、安積殿のあまりに人もなけにのゝしり給ふに、ほそやづかにて侍れとも、矢一すしまいらせんとて、十三そく三ふせよつひき兵とはなちけり、安積かもちたるなきなたの石つきの上、三寸はかりをいとをして、あまる矢か、矢倉のふせきいたに、篦中すきてそいたてける、安積こゝろにおもふやう、いや〓〓かやうのものに、矢一すしにていころされん事い、くちをしき事なるへしとて、矢くらより下にとんており、大勢の中へわつていり、件の影安をめにかけて、おめきさけんてきつてまいる、本より安積は一騎當千の兵なれは、四かく八ほう、八はなかた十文字にきりまいり、きつておとす程に、手にたつものそなかりけり、やにいに敵十三騎きつておとしけり、去程に影安、いせんあたや射つる事を、むねんにおもひけれい、安積なれいとて、鬼神にてもあらしと、馬より下にとんており、安積とのいさやくまんとて、六尺あまりの大たちを、まつかうにさしかさしかゝりけり、安積につことわらひ、我等もさこそ存すれい、いさやせうふをすへしとて、くたんの大なきなたを小わきにかいこんて、おとりかゝる、影安も大たちにてたかひに剛の兵なれい、半時はかりたゝかひしか、さらに勝負はみえさりけり、安積心におもふやう、いせん影安かいたりし矢にあたりなは、さこそくちおしかるへきを、かくてわたり合たる事のうれしさよと、よろこひつヽ、大長刀をくきなかにとりのへて、まつか嘉吉物語うを丁とうちけれは、影安か運命のきいめにてやありけん、きつさきほそくひにあたりて、廿七と申には、安積が手にかゝりてうたれけり、弟の平三影光、兄をうたせてくちをしく思ひけれい、安積にきつてかゝる、安積につことわらひ、あらやさしの影光や、侍のならひとて、兄をうたせて、身をすてんとおもふ心さしこそあはれなれ、さりなから、手にたるましき事のむさんよ、おなしくいいのちをなからへて、兄の後生をとふらひ給へかしといひけれい、いよ〓〓影光はらをたて、いかりをなしてかゝりけるを、なさけなくも安積殿、長うち物をすてさまに、とつてひきよせ、わたかみつかんて、ひたりのわきにかいこんて、あや頸ねちきりすてゝけり、是をみてみな〓〓かないしとやおもひけん、城のふもとまて引ありそきけり、さる程に、安積い本の城にかへりて、御かたの勢をあつめけるに、わつかに百人にもたらす、うちなされけり、安積此うへはみな〓〓おもひ〓〓におち行て、世をすくし給ふへし、我々事い、入道殿のさためて死出の山三途の川にてまち給ふへけれは、いそきをつヽき奉るへしとて、入道殿の御ゑかいにとりつきて、南無や西方極樂世界の彌陀善逝、すてに我等いはかい無慚の凡夫なれい、かねて後生の善をいとなむ事なし、其うへ弓矢の家に生れぬれい、いつも殺生をのみ事とせり、かなしきかなや、さりなから彌陀方便の御ちかひをあふき奉れは、攝取不捨の本誓、不取正覺の悲願、たのもしきかな、たとひ極重惡人也とも、せいくにてむなしからすんは、罪障のまよひの雲をふきはらつて、眞如の月の影をやとし給へつゝ、ちかくはふたらく山の大悲觀音、とをくは西方極樂世界の彌陀如來、われらをむかへ給へと、別記第百七嘉吉物語