爛柯堂基話卷之二たり其者彌大言して歸りぬ又重ねて約束の日になりて指けるに今度は三番指して三局共に其者負たり是其者量を計りて工夫ありしと見えたり爰に於て長崎の者舌を吐て大に驚感じ入他國遊歷に不及直に歸國せしとなり仙角が盤上の聖なりと云し果然たり徂徠先生答問書學問仕樣の事御尋被仰下候此段中々書中にては被申盡不申事に候遠境投熱之儀從來何方へも一切御斷申入候儀此故に候其許へは多年の御深志承及候故任御望今更御答に致當惑候先は遠境より傳授は難成事是事理の當然に候依之孔門之諸弟子も何も從學被致候事に候其仔細は其門に入候得ば門風と申事有之樣々の事にて其風儀に染り候所より思致過半候事に候從古師友と申事有之師〓よりは朋友の切磋にて知見を博め學問進候事に候當時大名高位の稽古埓明不申候事よき師をば引付學被申候得共位貴く候故朋友無之依之何藝も不致成就事是明證に候朋友に交り門風に染候事是第一の事に候然れば遠境にて傳授は難成事顯然に候然れ共御深志に御座候間其師友の代に成申事可申進候責ては是にて成共可被償御志を候其師友の代に成申候書籍にて候損友を遠け益友を近け候事取友の道に候然れば損の參る書籍は目に絕て御覽有之間敷候益に成候書籍に御心を被染べく候是より外に別に師友の代に成候事無之候下略按るに右徂徠翁が云ふ如く高貴の人にも不限基は勝負ある藝なれば家來は君の心に合はんとおもひ已勝ことを不好或は又硬直の者にても外よりいひ〓て負させるもの也富貴の人には出入相手になる者共多は阿り謂ふもの也然れば富貴の人物を學ぶには心得あるべき事也某經の善書は某經連珠同拔萃選粹名世棊鑑國技觀光等也然れ共觀光は幼學の者通曉し難し舊きは連珠新は名世某鑑よき也牧野殿圍棊の事下總國關宿の侍從牧野備後守成貞圍基を被好禀性棊道聰慧なり本因坊四世道策か弟子となり被學元祿中段位五段に被進古候伯にて如斯は唯一人也自幼少專修行無懈勉强すと雖も高段に至る者甚稀なり本因坊隱居道悅桑原道節等との基譜を見るに有趣先にて手合被致候と見えたり常憲公未た館林藩邸に被爲在候時分より御側を被勤大統を被爲嗣候ては御老中に被列日夜繁務看想すべし然るに暫時の閑暇餘力を以て專門の基者も容易に難及高段の地位に至る感ずるに餘りあり然れ共自ら疑惑を生じ本因坊一統は門人の事故貴人を敬ひ機嫌を憚て諸弟子へも申含め謂ふとには非ずと雖も斟酌するにもあらんか然る時は眞の切磋に成らす思はれければ一日本因坊を被招右の心底を被申斟酌有之ては稽古にもならず又慰にもならぬなれば已來心を得られよとなり本因坊答へて曰く聊か左樣之儀無御座候若し御疑有之候はゞ他門の者と御手合御試可被成旨申述依之安井算知と圍棊被成候算知は名人の儀故二つ置御試の處牧野殿二目勝也思ふに是にて疑心氷解せられしや又算知儀他門たりと雖も相手する心底知るべからず近來峰山候京極殿圍棊御好被成井上因碩門弟に被成同職は勿論高弟共數多被招不斷某會御催也四家の弟子高段の弟子二人都て六人罷出御自親御圍み被成家臣にも相應に出來候者數輩有之交々の手合賑々敷棊會也其席にて同職共との被望度々見物有之所一日に手員五十手或は三十手の日もありて漸數日を經て畢る御自親の圍棊は一日にて畢り或は半日にて相濟依之而被思召は相手する者輕視して心を用ふるに不足して手を下す速なる歟體屈欠伸を斟酌して然るか同職共との手合とは差別あり自分も五段なれば容易には無之筈也若くは倦んことを憚て相勤て速に圍むならば了簡相違なり何程遲滯にても