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跡を尋ねて見ますと、今日やつてゐる事の中には既に古くから知られて居つたことも少なくないのであります。ただその譯は分らず、多くは名人の秘術とせられて居つたのであります。然るにこれが近代科學の洗禮を受けて、その理由が開明せられましたため、別に名人の妙技を俟たずして成し得るに至つたのみならず、從來の方法を改善する途が分り、今日の如き科學的工業が興つたのであります。故に家事に就てもその改善進歩を圖らんとすれば、先づ從來行はれて居ることに對して科學的説明を加へること[#「從來行はれて居ることに對して科學的説明を加へること」は太字]が必要であらうと思ひます。本書の企圖するところも亦ここに在るのであります。從つて本書の收むる材料は日常遭遇する極めて卑近の事柄ではありますが、その説明に至つては十分科學的に成すやうに留意した心算であります。その一つとしては、成るべく家庭に於て實驗し得るやう[#「成るべく家庭に於て實驗し得るやう」は太字]、實驗の方法を工夫してありますから、これを試みられんことを希望します。  最後に私は敢て本書を母としての修養のために推薦したいと思ひます。母はあらゆる方面に於て、家庭に於ける子女の教育者であらねばならぬことは無論であります。自然科學に就てもさうあつて欲しいと思ひます。それには家庭に於て目撃する自然現象を材料とするのが最も有效なることは申すまでもありません。併しそのためには母にそれだけの修養を必要とします。本書は正にその要求に應じ得るものなることは堅く信じて疑ひません。若しこれによつて子女の幼き腦裡に宿る自然科學の萠芽を培養することが出來たならば、我が國民一般の科學的能力を向上せしめ得るのみならず、まだ偉大なる科學者もかかる母によつて哺まるるものと信ずるのであります。

昭和十二年四月二十九日 天長説の佳辰 仙臺に於て 著者識す [#改ページ]

家庭物理學 上卷 目次 緒論 1.自然科學 2.家庭物理學 3.家庭物理學と家事科との關係 第一章 質量及び秤 4.質量及び重量 5.槓桿 6.天秤 7.桿秤 第二章 合力及び分力 8.平行力の合力及び分力 9.重心 10.臺秤(カンカン) 11.偶力 12.一點に交はる二力の合力

<trjpft> 「家庭物理学」: 前頁 | 次頁 近代デジタルライブラリーの当該頁へ <astyle><gstyle>新旧字混在</gstyle><kstyle>旧仮名</kstyle><tstyle>青空</tstyle></astyle> </trjpft>