Info:ndljp/pid/980517/4

其辺ノ処ハ予メ御承知置キヲ願ヒマス。 　第一六回全国図書館大会第五日ノ本講演会ヲ、茲ニ南海ノ一僻隅ニ似タル此ノ和歌山ノ 地ニ開キ得タルコトハ、小原知事閣下御初メ、市長其他県市当局者及ビ有力ナル諸兄ノ厚 キ御同情ニ依リシコトト深謝ニ堪ヘマセン。 　今回ノ大会ニ参会セラレタル諸兄、南ハ南満、台湾、北ハ北海道其他全国各地ヨリ参 集セラレテ、既ニ奈良ノ歴史、名勝、天然紀念物ニ富ミ、且明媚ナル風光ヲ賞翫シ、加之法 隆寺ニ於ケル聖徳太子一千三百年御忌法要ニ参拝セラレ、又高野山ノ幽邃ナル景致ヲ賞味 シ、何レモ一種清新ノ気ヲ齎シテ会同セラレ、今日明日ハ、当地ヲシテ遽カニ溌溂タル生 意ヲ震動セシメタレタルコトニ就テハ深ク欣栄トスル所デ御坐イマス。 　過日法隆寺ニ於テ法要参列ノ節、今回ノ聖霊御法会挙行ノ為メ、法隆寺寺務所書院ノ大 襖ニ、画伯中村不折氏ガ、大ニ健筆ヲ振ハレタルヲ観マシタガ、其図ガ寒山拾得ニ御坐イ マシタ。 　扨テ、コレニ就テ少シク感ヲ起コシマシタカラ申述ベ試シマス。 　寒山拾得ノ両人中、一人ハ天上ノ月ヲ指シテ両人共ニ笑フノ図デ御坐イマシテ、寒山ガ 其心ヲ澄ミ渡リタル秋ノ月ニ比ラベ、「我心如秋月」トノ詩句ヲ作リ、心ヲ一ニシタル拾得 ト語リ合ヒテ、互ニ清キ心ノ楽ミヲ喜ブノ余リ、相共ニ笑ヒヲ発スルノ意ヲ示サレタル可 シト思ヒ眺メマシタ。 　春酣ニシテ百花妍ヲ競フ中ニモ、日東ノ国花タル桜花咲キ春鶯囀ヅルノ時ニ於テ、冷ヤ　 カナル秋ノ月ヲ話材ニ上ボラセタルハ、少シク時代錯誤ノ譏リアランモ、時節違ヒノ感ハ アリマスルガ春ハ人ノ心ヲ浮カバセテ進歩スルノ意モアルモノデ御坐イマスルカラ、分ケテ モ深キ遠キ考ヘヲ以テ、相互ニ研究スベキ事柄ノ少ナカラヌ今日、澄ミタル秋ノ月ト同様ナ ル冷静ヲ以テ、反テ目下ノ時勢ニ処スベキコトハ、オソラク御同感ノコトデ有ラウト信ズルノ デ御坐イマス。 　月ヲ指サレタル其月ハ、寒山拾得両人ノ足ニ近ク水ノ面ニ写リ居ルノデ、是レハ寒山ノ 詩ノ前ニ申シ述ベマシタル「我心如秋月」ト云フ句ニ続イテ「碧潭皎潔」トアルノデ、其意味 　 <trjpft> 「全国図書館大会ニ於テ総裁徳川頼倫侯講演」: 前頁 | 次頁 近代デジタルライブラリーの当該頁へ <astyle><gstyle>新旧字混在</gstyle><kstyle>仮名遣い混在</kstyle><tstyle>Wikiのみ</tstyle></astyle> </trjpft>