Info:ndljp/pid/887377/12

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らずとも・・・・・・乙「エエ御役人に向て言葉を返す不埒もの今一言申すに於ては御番所に召連るぞ」と叱り懲して既に斯よと見えたる所に徳兵衞ハ此日用達にと上陸なしたるが今しも用向も果てイザ歸船せばやと此所に來りて此体を見るより猶豫なく船頭と武士の間に割って入り「何事かハ存じませぬが無骨ものの田舎船頭、粗造が御座りましたなら幾重にもお詫を仕りますに由て御勘辨のほど願ひ上ます」と地上に手を突き誤り詫るを見れバ木綿の布子の上にあづしとなん唱ふる船乗の着物を纏ひたる壮漢、此奴船頭仲間よと見侮り甲「見れバ其方も船頭体の者だが是なる無禮ものの仲間のものか」徳兵「ハイ是なる船頭ハ私しの抱えのカコで御座りますれバ乙「スリヤ其小船ハ徳兵「この小船ハ私しの持船で御座ります甲「ムム然らバ申聞んが我々共御用あつて沖へ參るもの其小船御用船にと申付たる所手船ゆゑと彼是差支を申立るに依て引立る所であるワ徳兵「何さま一應御尤でハ御座りますが私しも急用あつて沖中へ出るもので御座りますれバ其儀ハ何分御用捨を願ひます乙「スリヤ其方までが御役人の申付を相背くと申すのか徳兵「イヤ相背きハ仕ませぬが惣別御用船と申すハ御船番所より御達あるはず其外何なる貴いお役人衆の御沙汰でもお直にハ伺ハぬが船乘の作法それ故に御用捨をと申上た譯で御座ります甲「イヤ此奴が此奴が船頭風体の分際として・・・・・・」と言ながら兩人にて徳兵衞が手を左右より捕ふれば小舟の船頭は夫と見るより櫂おつとり武士を目掛て小船より飛上らんとするを見て徳兵「アイヤ甚太早まるまいナ其船はやく繋繩を解て押出せい早く早く」といら立て指圖をすれば兼て徳兵衞が伎倆を知たる船頭繋繩を解と諸共に持たる櫂を磯に突當てウンと一聲押出せば小船ハ一間ばかり岸より離れたり、徳兵衞ハ斯と見るより兩人が取たる左右の手を振解きヒラリと飛よと見えけれバ早くも小舟の中に飛入り「お武家さま御免なされませいと挨拶して急ぎ本船さしてぞ歸つたる 後に兩人の武士ハ茫然として小船を見やり甲「イヤ下郎と侮どり思ハぬ不覺ソレに仕てもアノ壮漢船頭にハ違ひ無いが何者で御座るナ乙「左樣で御座る手前こと當浦賀にハ罷居りますれど地方の掛りを仕つり濱方の事ハ頓と心得ませぬが只今の腕まへ凡庸とハ思へませぬハテ扨心憎い奴で御座ります甲「夫ハ格別、思ハぬ事に手間取てハ御用の妨げイザ番所にて御用船を申付け永寶丸へ罷越し山田


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