Info:ndljp/pid/1720139/13

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れてゐるに違《ちが》ひありません故《ゆゑ》、いつかはきつと皆《みな》さんの世界《せかい》に段々《だん/\》と生《う》まれて参《まゐ》りませう。

 話《はなし》が少《すこ》し脇道《わきみち》に脱線《だつせん》しました。話《はなし》の始《はじ》めに申《まを》した玉《たま》の男子《をとこのこ》は、光《ひか》りの強《つよ》いばかりでなく身《み》の硬《かた》いことも亦《また》世界《せかい》第《だい》一で、どんなものも此《こ》の子《こ》に及《およ》ぶものはありません。こんなに不思議《ふしぎ》な子供《こども》でしたから近所《きんじよ》隣《とな》りでも、此子《このこ》の評判《ひやうばん》は盛《さか》んでしたが、誰《た》れいふともなく、此子《このこ》に金剛石丸《こんごうせきまる》といふ名《な》を付《つ》けてしまひました。又《また》人《ひと》によつては、此子《このこ》は太陽《たいやう》よりも強《つよ》い光《ひかり》の子《こ》だといふて、日吉丸《ひよしまる》と呼《よ》んだ事《こと》もあります。今日《こんにち》では丸《まる》は船《ふね》の名《な》だけに残《のこ》つてるのですが、昔《むかし》は男《をとこ》の子供《こども》を呼《よ》ぶに丸《まる》をつけたものです。牛若丸《うしわかまる》なぞは、どなたにも耳慣《みゝな》れてる子供《こども》名前《なまへ》です。

[#「磨きあげたダイヤモンドの種々。実物の面積は此絵の五倍。」のキャプション付きの図入る]

  【二】金剛石丸蜂須賀小六に会ふ事

 浮|世《よ》の風《かぜ》は、此《この》小《ちひ》さな金剛石丸《こんがうせきまる》の身《み》にも荒《あら》くあたつた。親切《しんせつ》であつたモアツサンも没《な》くなり、里人《さとびと》も最初《さいしよ》ほどには面倒《めんだう》も見《み》て呉《く》れず、生《う》まれた郷《さと》もなんとなくあぢ気《け》なく感《かん》じました。きかぬ気性《きしやう》の丸《まる》の事《こと》であれば、到《いた》る処《ところ》青山《せいざん》ありと志《こゝろざし》を決《けつ》して、とうと生《う》まれ故郷《こきやう》の山河《さんが》をあとに、世界《せかい》漂浪《へうらう》の旅《たび》にと登《のぼ》りました。なんでも世界《せかい》の東《ひがし》に桜《さくら》の咲《さ》く美《うつ》しい国《くに》があると聞《き》き、其処《そこ》を目《め》あてに流《なが》れ流《なが》れて幾《いく》千|里《り》、風雨《ふうゝ》寒暑《かんしよ》はいとはぬが、陰極線《ゐんきよくせん》といふに曝《さ》らされたか、生《う》まれながらの麗質《れいしつ》にも、稍《やゝ》黒味《くろみ》を帯《お》びて哀《あは》れである。かくてたどり着《つ》いたのが日本《にほん》の国《くに》矢矧川《やはぎがわ》の畔《ほとり》で

<trjpft> 「炭素太功記 : 理科読本」: 前頁 | 次頁 近代デジタルライブラリーの当該頁へ <astyle><gstyle>新字</gstyle><kstyle>旧仮名</kstyle><tstyle>青空</tstyle></astyle> </trjpft>