Info:ndljp/pid/887377/10

提供: TranscribeJP
移動: 案内検索

無しに尋ぬれバ先年大阪夏の御陣に大御所の御勘氣を蒙つて浪人したる高力信濃守とて云ふ武士の息女夫から段々懇意に成りハ成たれど其高力ハ元ハ歴としたる御旗本この徳兵衛が素性さへ知たなら其時にハ夫婦に仕やうと彼方の望ソ□□(レか)ら夫と約束ハ仕て置たが、此程堺に立寄て様子を聞バ其の高力殿ハ大御□□□康公の事)の御年忌に由て当春帰參相叶ひ江戸表に立歸り本領その儘元の通りに下されしとの噂、ナント叟よ明後年になつて余の系図が分つたら高力の息女の深雪を宿の妻に申受やう程に心變をせずに待て居よと卿ハ余の手紙を持て其息女に逢てハ呉まいかのウと語るを聞より眉に皺よせ義右「イヤイヤ郎君夫やア止にお仕なされい惣別女と云ふものハ氣移りの早いもの去年の春から明後年の夏まで四年越の永の月日どの様に惚て居ても懸隔つて顏も見ぬ男をバ守つて居るもので無い憖ひ其を當にしたらドンナ恥を掻うも知れぬもの又船乗で梶柄つかみ唐國異國に押渡り功名手柄を仕やうと思ふ武士が妻子が有てハ後髪つひ羈絆に引されて思ひ切たる仕事が出来ぬ先づ一ぱし出世を仕た上で遅くもあらぬ女房沙汰、其上にまた高力信濃守とやらと云ふ武士も尊公の系図を聞たなら此婚礼ハ不承知と刀に掛て斷るかも知れ申さぬ、ヨシ又高力が斷らずとも尊公の方でソリヤ釣合ぬ身分じやと後悔さつしやるかも分り申さぬ、ジヤに由て御息女の御心中ハ不便でも御座らうが先づ當分ハ音信不通、いよいよ尊公の身の上の素性も分り御息女も亦其時まで緣組せずに居られたらソコで話しの仕やうも御座らう先づ夫までハ御無用に成れませ郎君のお身の為に此義右衛門惡い事ハ申ませぬ」と理を分たる老人の意見の詞に徳兵衛ハ強て言れぬ戀の道徳兵「成ほど卿の意見に附て明後年まで見合せ樣が今度天竺より持歸つたる献上残りの唐錦コリヤ山田徳兵衞よりの土産で御座ると高力殿方へ届けるだけの事ハ仕てくれまいか」と云ふに義右衛門ハ其も同じくバ止に仕たいとハ思ひしが流石に夫とも言兼たれバ思ひ切て「夫だけの事なら苦しう御座らぬイカニモ此老奴が高力どのの屋敷へ持參してきつとお届申ませう徳兵「ソレでハ卿への土産物と一所に浦賀の問屋から届る程に必ず頼んだぞよ、時に叟よ卿ハどうでも此の品川に居ねバ成らぬか知らねども是迄ハ卿の扶持方余が心にも任せなんだがモウ是からハ卿一人樂に養ふ事も出來るに由て同じくば長崎か堺に引移つてハ呉ま <trjpft> 「天竺徳兵衛」: 前頁 | 次頁 近代デジタルライブラリーの当該頁へ <astyle><gstyle>新旧字混在</gstyle><kstyle>仮名遣い混在</kstyle><tstyle>Wikiのみ</tstyle></astyle> </trjpft>