電子読書支援システム開発者インタビュー
■ これまでの研究や、あるいはいろいろなデータベースを利用していて、どのような問題意識・事情から、「電子読書支援システム」の機能を思いつかれたのでしょうか。
もともと我々の組織は、「新書マップ[1]」や「Webcat Plus[2]」のような書籍の紹介・検索のサービスを提供してきました。一方で電子書籍が普及してきたことから、電子書籍による読書を考えるための実験室「e読書ラボ[3]」を開設しました。市販の電子書籍読書端末は、いかに紙の書籍の読み方に近づけるかを念頭に開発されてきましたが、我々は電子書籍ならではの新しい読み方があるはずだという問題意識からこの電子読書支援システムを開発しました。
■ 国立国会図書館のデータベースで、例えば、近代デジタルライブラリーなどと比べて、「電子読書支援システム」のインターフェースでは、どのような工夫をされているでしょうか。
まずは当たり前になりますが、普通に読めることをめざしています。近デジでは年代の古い書籍はマイクロフィルムで保存されており、画像にノイズが乗っていたりコントラストが悪いなど視認性がよくないものがあります。今は実証実験の段階なので人手をかけ,ノイズ除去やトリミングで余分な余白を取り除く処理をおこない可読性をあげています。
そして操作の面では、キーボードのカーソルキーだけで基本的な動作がおこなえるようにしています。ページめくりは左右のキーで、図表など少し拡大して見たいときは上下のキーで拡大率を調節できます。
■ 「電子読書支援システム」では、通常の電子書籍のリーダーと比べて、どのようなメリットがあるとお考えでしょうか。
本システムの自動脚注表示機能は、本文中に出現するキーワードについての情報を左右のサイドノートに表示するものです。本文中のキーワードにリンクを付与するという機能はWebではニュースサイトなどですでに実現されていますし、Amazon Kindleに搭載されているX-Rayという機能もあります。
これらの既存の機能と大きく異なる点は、読者が能動的にクリックして情報を引き出すのではなく、ページ表示と同時に常に情報を提示するところにあります。Wikipediaをはじめとする情報源ではキーワードの説明の他に写真や図が掲載されており、この画像を本文ページとともに提示することで、内容の理解が大きく進展することがあります。百聞は一見に如かずですね。しかし、常に表示することから表示する情報の精度や項目の選別が求められますが、現時点では本文と関係のない情報を提示することも多く、精度向上がこれからの課題です。
自動脚注表示機能が読書のじゃまをするというご意見がありますが、これはもっともな意見で、小説や伝記などの文学作品のような読書を楽しむコンテンツでは、イマジネーションを妨げるため表示しない方がよいでしょう。その一方で図鑑やリファレンスブックといった情報を得るためのコンテンツについては補足情報として表示すると有用だと考えています。
■ 「電子読書支援システム」での表示や検索では、どのような特徴があるでしょうか。
本システムでは、紙の書籍を画面上で表示することを基本機能としていますが、我々の目的の1つは、書籍から情報を得るためにはどのような閲覧形態が望ましいかを検証することにあります。そのため、紙という物理媒体にこだわらない新しい見せ方を試行錯誤しており、複数のデザインを切り替えることで見栄えを変えているのもその1つです。もちろんすべてのデザインが読書に適しているわけではありませんが、紙の書籍を使ってもここまで表現できることを示したいという意味があります。
検索については、書籍内の検索とともに複数の書籍を一括して横断検索する機能を持っています。単に検索キーワードがヒットしたかどうかだけでなく、どの章で何回出現しているかを示すことで、どの書籍のどの箇所を読めばよいかを示してくれます。
■ 「電子読書支援システム」では、外部の情報源を参照しながら、読み進めていくことができます。例えば、学術研究目的の範囲内では、どのような情報源で試行されているでしょうか。
学術研究用に利用許諾を受けた市販の百科事典や専門用語辞書を試していて、Wikipediaだけでは得られない学術的な情報が得られるとともに、説明文の文体が固くなると全体の雰囲気も変化するところが面白いところです。
また、我々は本文中のキーワードをクエリーとしてYoutubeを検索し、キーワードに関する動画を表示する機能も開発しています[4]。動物を扱った本では動物の動く姿が、楽器が出てくる本ではその音色が動画で視聴できるといった具合で、特に子供向けの本などに向いている機能だと思います。
■ 「電子読書支援システム」の研究をしている中で、偶然発見したような役に立つ参照情報源はありますか。
「想-IMAGINE[5]」という連想検索を利用した横断検索を提供しているサービスがあり、その中で文化庁の提供する文化遺産オンライン[6]という情報源があります。これを脚注に表示すると仏像が出たり茶器が出たりと本文とはまったく関連がないのですが、この文章からこんな文化遺産がつながるのかと、逆に感心してしまいます。
■ 今後、どのような機能があれば、役に立つだろうとお考えでしょうか。またそのために、どのような仕組みの追加をお考えでしょうか。
書籍は、その書籍内で内容が完結していることを前提に成立しているパッケージですが、先ほど申したように外部参照を積極的に活用した方が理解が進む分野の書籍もあります。今後は、この外部参照源として別の書籍の特定の箇所を提示できるような機能を開発していきたいと思っています。そのためには扱える書籍の数を増加させることが必須ですし、参照すべき箇所を特定する技術の開発が必要です。
■ 「電子読書支援システム」が効果を発揮するために、社会の側、あるいは、国立国会図書館のデータベースに、どのような環境、条件、データセットが整っていることが望ましいとお考えでしょうか。
日本では書籍の内容を対象とした学術研究はそれほど多くありません。その理由として著作権の問題があり、現在は学術研究目的で利用するために、書籍ごとに出版社や著者に許諾を得ています。
今後、膨大な書籍の中から貴重な情報を獲得する研究に柔軟に取り組める環境が整備されることを望んでいます。
[1] 新書マップ(http://shinshomap.info/)
[2] Webcat Plus (http://webcatplus.nii.ac.jp/)
[3] e読書ラボ (http://edokusho.info/)
[4] 阿辺川武, 間下亜紀子, 文章中のコンテクストに適合した関連動画の検索,
情報処理学会研究報告エンタテインメントコンピューティング
2013-EC-27(19) 2013年3月.
[5] 想-IMAGINE (http://imagine.bookmap.info/)
[6] 文化遺産オンライン (http://bunka.nii.ac.jp/)